月夜のドライブ

ラブレターバンバン書いて紙飛行機にして 宛てもなく空に飛ばすブログです。▶プロフィールの「このブログについて」をクリックで記事一覧などに飛べます。

of Montreal「no conclusion」の希望と絶望とリアリティ

画像ひとつの曲のことをここまで語りたくなっちゃうのは、相当深く刺さってしまってる証拠。なんだろうな。前にいちど書いた、of Montrealのミニアルバム『Icons, Abstract Thee』。ラストの「no conclusion」という曲が、ブラックホールのように今、私を完璧に飲み込んでしまってる。

 

ポップなのに悲愴で、ユーモラスなのに絶望的で。そして、曲の終焉に向かってすべてがすさまじく狂っていく。はじめて聴いたときから、この曲の不可解で圧倒的な力に息もできないぐらいだったのだけど。最近Lyricsサイトから引いてきた歌詞を追いながら聴くようになって、その切迫感のありかに、少し、ふれられたような気がしてる。

“no don't worry kid
 the darkness is just suggestion”

幾度もくり返されるフレーズ。「心配するなよ/その邪悪さはほんの気のせいだから」って。それは僕たちを試しているだけのことだから、勇敢に立ち向かえばいいさ、と、自分を励ましているようにも聞こえる。

 

でも、希望をかすかに含んだこのフレーズは、いくつもの否定的な言葉で打ちのめされ、徹底的に立ち上がれなくさせられる。

“I feel defeated”
“now something's wrong”
“although we try to break the loop, it's always stuck repeating”
“I always thought things would change somehow
 and we would start getting along but it's hopeless”

 

どんなに破ろうとしても崩すことのできない、邪悪さのループ。何か変なんだ。どっかおかしいんだ。どうしても駄目なんだ。きっとよくなるだろうと、どうにかして変えられるだろうと思ってたのに。

 

…“hopeless”なんだ。

 

ラメ入りのアイシャドウとチークをつけて、シフォンのブラウスをまとって、眩しいライトを浴びながら何百何千の観客の前でダンスするケヴィンは、でも、世界の淵で圧倒的に孤独でいる。闘うべきものの巨大さに壊れそうになりながら、ひとりぼっちで、この世界のどうしようもないdarknessと向き合ってる。

 

曲の中でくり返される“no don't worry kid”というフレーズの中、一カ所、ケヴィンは“no don't worry kevin”と歌う。そのつぶやきの孤独とせつなさ。「ケヴィン、心配するなよ」その言葉を握りしめながら、彼はどこへ向かおうとしているんだろう。

 

“and I never ever ever wanted to write this song”

リピートされる彼のこの言葉が、心臓を貫通したまま、抜けることがない。正確な意味は到底わからないけれど、ケヴィンは、自分が、歌うことでしか、音楽を作ることでしか、何かと闘うことはできないことを知っているんだよね。息をすることさえ、生をつなぐことさえ、ギリギリの場所。そんなところに立たされても、「歌う」ことしか選べないということの、あきれるほどの馬鹿馬鹿しさと、あまりの崇高さ。


“and I never ever ever wanted to write this song
 I always thought things would change somehow
 and we would start getting along but it's hopeless  hopeless”

苛立ちと絶望のあいだを揺れる詞は、ポップなメロディと煌めくような音を連れてメリーゴーラウンドを加速させた末、狂騒の結末へと向かう。痛々しいほどなにかを希求するケヴィンの叫びを、静かに土の中へと眠らせるように、最終章のストリングスが鳴る。それはまるで、広大な墓地に降りそそぐ星屑のように、悲しく、うつくしい。

 

この『Icons, Abstract Thee』というミニアルバム、ちょうど普通に買えるようになるのが今日からなんだよね(今までは通販とライブ会場だけだったみたい)。もし機会があれば、この「no conclusion」という歌に出合うためだけにでも、買ってみる価値はあると思う。amazonなら今1000円ちょっとで買えるし。HMVの「輸入盤CD3点買うと25%オフ キャンペーン」の数合わせにもおススメ。って私はレコ屋の回し者か…。(でもこのHMV商品ページでリンクされてる試聴サンプル、ぜんっぜんちがう曲だから!どうしてこんなことになってるんだ…。amazonのほうは合ってます。)

 

この「no conclusion」という曲の、歌詞の重さに気付かせてくれたのは、見も知らぬ相手ながら同じようにof Montrealに参っているのであるらしいかたの、この記事でした、ありがとう。(私のバカ記事にリンクしてくださってることにも、感謝です。)

 

*『Icons, Abstract Thee』of Montreal