めぐる季節の中で、いつごろがいちばん好き?って聞かれれば、迷わず、冬。ピンと張りつめた空気、白い吐息、少し重たいダッフルコート。曇るガラス窓と、タータンチェックのスカートと、コーヒーの湯気と直線の風。ただでさえ言葉少なな彼と言葉足らずな彼女は、凍りかけた池の冬鳥を眺めながら、きっといつまでも黙ってるんだろう。でも、それでいい。きみがいて、私がいる、それだけが何よりいとおしい季節。言い出しかけてはやめてばかりの空白は、そのままやさしさに読み替えて、ポケットの中へ。急がなくていいから、冬の中を、宛てもなくただ歩いていこうね。
プレイリスト「冬の散歩道」、作ってみました。つめたい空気を分け入る歩幅に似合う歌たち。私が勝手に「冬」を感じるものも入ってるから、正確には冬の歌じゃないのもあるけど、ね。好きな季節だけあって、ほんとに大好きな曲ばかり並んじゃった。そしてなぜだろう、どことなくフォークロックな感じ。
Side A
1. 「モリスンは朝、空港で」佐野元春 (シングル『グッドバイからはじめよう』83年 より)
これは、ひとえにこのジャケを並べたくて。いい写真。83年3月、ちょうどナイアガラトライアングルvol.2の1年後に出たシングル盤のB面から(のちに『No Damage』なんかにも収録)。佐野くんの曲のどうにも外国的な匂いは、その当時ものすごく衝撃的だったけど、今聴いてもやっぱり日本人離れしてるな。さざめきの中、街が目を覚ます。 |
2. 「WHITE STEAM」グランドファーザーズ (ベストアルバム『GOLDEN HARVEST』99年 より)
ニューヨークから一気に日本の田舎町へ。オリジナルは87年のインディーズ盤。詞だけ読むとものすごく土着的なんだけど(今気付いた…)、メロディはどこでもない国をふわふわ漂っていて、どっか不穏な感触といい、つくづく青山さんだ。 |
3. 「カノン」上田ケンジ (アルバム『青』06年 より)
去年のベストアルバムの1枚に選んだばかりのウエケンさん『青』から。中でもいちばん好きな曲。いつかひとりで札幌に行くことがあったら、この詞の中に出てくる白樺の「若草公園」を訪ねてみたいな、なんて思ってる。 |
(アルバム『SPIN』04年 より)
ぼくら 逃げる うさぎだった 生きるだけで 精一杯の 松尾清憲さんのこの曲、歌詞を鈴木慶一さんが書いているのだけど、これが本当に素晴らしくって。情けない詞を書かせたら慶一さんの右に出る人、ほんといないな…(ホメてます)。胸が痛くなるほどの、白一面の世界。 |
5. 「真冬のランドリエ」大江千里 (アルバム『未成年』85年 より)
個人的に、過去のねじれた恋を2つほど思い出さないわけにいかない曲…だね。私が知ってるかぎりの大江千里くんのナンバーの中で、いちばん好きかも。この何気なさが、たまらなくいい。 |
6. 「月曜のバラッド」青山陽一 (アルバム『DEADLINES』06年 より)
詞の中には冬を示す言葉は出てこないけれど、どうにも、寒い朝の白い吐息を感じさせる曲。大好き。チェックのネルシャツや、大きなベッドや、背の高い郵便受け、冷たい敷石の舗道、歌詞にない映像までさまざまに浮かんでくる。 |
B side
(アルバム『GET CULT』93年 より)
ああ、フォークロックだなあ。なんども書きまくってるけれど、タイツナンバーの中でもとりわけ好きな、宮崎さんボーカル曲。すれちがう恋ばかりしてる私には、一色さんの書く詞のエピソード、痛いほどわかるよ。 |
2. 「A FROZEN GIRL,A BOY IN LOVE」ムーンライダーズ (アルバム『DON'T TRUST OVER THIRTY』86年 より)
タイツつながりで、滋田みかよさん作詞のこのナンバーを。言うまでもない、私の運命のアルバム『ドントラ』に収録の、武川雅寛さんの名曲。そう、冬にかわされる「約束」ほどせつないものってない。 |
(アルバム『ロミオ道行』02年 より)
松本隆作詞・堀込高樹作曲。のちにキリンジのセルフカバーも出たけど、ここはオリジナルの藤井隆バージョンで。こっちのほうがAOR度が高いような気がするね。枯葉とトレンチコートと乾いた風、「ルビーの指環」の系譜にある世界。 |
4. 「君の胸に抱かれたい」キリンジ (アルバム『3』00年 より)
で、キリンジ。これはまったく冬の歌じゃないんだけれど、ひそやかな魔法を閉じこめてるような曲調が、冬に似合う気がして。おとぎ話を、いつもより少し信じられる季節。つめたい空気の中、届くはずのないものに、ふれられたらいいな。 |
5. 「おてちょ。(Drop Me A Line)」矢野顕子 (ライブアルバム『グッド・イーブニング・トウキョウ』88年 より)
これも、冬の空気にすごく似合う(と勝手に私が思う)曲。このライブバージョン、ほんとに好きで好きで。87年12月の東京厚生年金会館、私は2日とも観に行ってて、その「バンドサウンド」のありように心底ブッ倒れたライブ。高橋幸宏、小原礼、坂本龍一、窪田晴男、吉川忠英、って、まあブッ倒れるなっていうほうがムリ。 |
6. 「駅は今、朝の中」ムーンライダーズ (アルバム『ANIMAL INDEX』85年 より)
最後はもう1曲ムーンライダーズ。どうかな、季節は冬じゃないかもしれないけれど。これもなんども書いているけど、博文さんのこの詞は、私にとってのひとつの「答え」。たったこれだけの数の何気ない言葉が、届く場所の致命的な深さ。もたらす痛みの複雑さ。もう20年もずっと。 |
以上全12曲のプレイリスト。あー聴けば聴くほどいいな。そしてなぜだか全体に、ものすごくアコースティックギターが鳴ってる感じ。おもしろいね。つめたい風を感じながら散歩を続けるって、フォークロックな行為なのかもしれない。並べた曲、じつに83年から06年までの幅があるのに、ぜんぜん違和感なく聴けるのもスゴイ。しみじみ、素晴らしい音楽に恵まれてるな…。
冬。自分ってどうしようもなく「独り」なんだなってことを引き受けながら、それでも、指先を伝わってくるきみの体温を信じないではいられない季節。たとえ瞬間のできごとでもね。そんな冬が、大好き。