月夜のドライブ

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まだまだ語る『DEADLINES』---「Cherry Blossomは今」

画像もうどんどん勝手にしつこく語ります、青山陽一さんの新譜『DEADLINES』。というか、今日は、「Cherry Blossomは今」のこと。本当にこの数日間完全にこの曲に心を持っていかれちゃって、アルバム一枚通しで聴いた後、気付くとこの曲ばかりリピートしてしまう…。こんな美しい曲があっていいのかな…っていう驚きは、なんど聴いてもちっとも薄れることがなくて。詞、曲、ボーカル、演奏。ミクロからマクロまでのすべてのフェイズで、完璧にして最高の作品じゃないかなって気がする。

 

だって、こんなせつないメロディで開口一番“ハレルヤ”だよ…。もう、どうしたらいいのよ…。

 

ムーンライダーズ鈴木慶一さんの詞は、いつもそうであるように現代詩のたたずまいで、彼が持っているもののたぶん100万分の1のバックグラウンドもない私には、いつもそうであるように完全に理解できるってことがない。「セレソ・ローサ」なんて単語も、ライナーで青山さんに教えてもらわなければわからないしね。でも、わからない言葉だらけでも、それでも、そこにあるものが「わかる」し、どうしようもなく「伝わ」ってきちゃうのはどうしてなんだろう。「情けない歌を書かせたら右に出る者はいない」っていうのが音楽ファンのほぼ一致した慶一さん評(もちろんホメてます!)だけれど、ここ最近の彼の詞には、その情けなさの底に、それをゴールにしない創痍の壮絶さを感じるんだ。うまく言えないけど…手放すことのラクさと引き替えに、執着していくことの困難さを受け入れる、半ばあきらめ気味の覚悟、かな。この「Cherry Blossomは今」にも、それを痛いほど感じて、参る。聴く私がこの歳だから、余計。

 

前の記事にも書いたけれど、青山陽一さんのボーカルが、ちょっと背筋が凍りつくほどのよさだ。曲調が導くものでもあるし、鳥羽さんのミックスがことさらそのよさをすくい上げている気もするのだけれど。ハモンドオルガンとギターの静かなイントロに続く青山さんの歌い出しは、呼吸のひとつひとつまで聴こえてくるような生っぽさでものすごくドキッとする。青山さんの声が含む振幅の繊細さを、これほど魅力的に感じるの初めてだ。立ち上がりもサビの旋律も、青山さんのいつものメロディよりキーが高いようにも思うんだけど、心臓ぎゅっとつかまれるようで、ものすごくせつなくていい。と同時に低い場所をたゆとうボーカルも、耳元で囁かれているような近さで、今までにないような深みを湛えていてたまらない。青山さん、いつのまに、どんな扉をくぐってこんなボーカリストになっちゃったんだろう…。そして“今来た道が消えてく…”で後半のピークを迎えた後、“ハレルヤ…”からのユニゾンのボーカル(The Byrdsみたい!)が、もう泣けるほどいい。

 

ひとつひとつの楽器の音がまた、何てことない顔して、とんでもない高みで結び合っているんだ。どんな直観や編曲技法を使えばこんな演奏に行きつくのか私にはまったく見当がつかないけれど、ハモンドオルガンのせつない響き、印象的なフレーズで支えるサイドギター、絶妙にしてたしかなドラム、魅力的なラインを繰り出すベース、控えめだけれどとっぷり甘くて悲しいリードギターの音、それらが一瞬ごとに、最高の音像を作り出す位置取りをしながらうねっていく。どの瞬間を切り取っても、そこに「最高の音」がある。こんな演奏、あるんだな…。聴けば聴くほど震撼するよう。

 

青山さんがライナーノーツで、アルバムタイトルに含まれる「DEAD」という単語から想像されるような歌詞はできないかと慶一さんに提案もしてみた、と明かしてくれている。そのモチーフや世界観から導き出されるところもあるのだと思うけど、この曲に感じる美しさ、どこか宗教的でさえある。そして何より泣けるのは、それが、こんな粗っぽいロックの中で起こってることなんだ。

 

痛みを感じるほど悲壮な青山さんのメロディ、慶一さんの詞を覆う閉塞感と絶望感。そして、でもどこかに微かに感じる一筋の光。「生きる」って、この不確かでぼんやりとした光を信じることでしかない、のかもしれない。55歳の慶一さんが詞を書き、43歳の青山さんが歌うこの歌に、私は、日本のロックがこれまで至ったことのない、まったく新しい場所を見るような気がするんだ。借り物のギターを鳴らし、慣れないリズムで歌い始めたこの国のロックが、誰も見たことのないこんな場所にまでたどり着くんだったら、それはやっぱり不毛なことなんかではなかったんだ。「若さ」ばかりを頼りにしてきたロックミュージックが次に闘うべきやり方を、こうやって身体に傷作ってドアを蹴破りながら探し続けてるミュージシャンがいる。ああ、日本のロックを好きでよかったな…。こんな歳になるまで、さ。

 

 

…と、また妄想語りしてしまった…。たった1曲で。加速するね…止まんないよ。でも、それだけ、この曲から受けたショックが大きかったってこと。凄いものを体験してしまったときに私にできるのは、森の隅っこでばさばさと羽を散らしながらうるさくさえずることだけなんで。

 

ふう。「Cherry Blossomは今」。今のところ、2006年のベスト・チューンですね…。

 

*『DEADLINES』青山陽一