月夜のドライブ

ラブレターバンバン書いて紙飛行機にして 宛てもなく空に飛ばすブログです。▶プロフィールの「このブログについて」をクリックで記事一覧などに飛べます。

ムーンライダーズ『Vintage Heritage Gig Act 1』@新宿FACE

画像おもしろかった~。行ってきました、『Vintage Heritage Gig Act 1』。ムーンライダーズ内ユニット目白押し企画の第一夜。ムーンライダーズって、音楽として唯一無二で貴重なのはもちろん、存在として実におもしろいバンドだとつくづく思ったよ。このバンドは、ほんと興味本位ででも見といたほうがいい。目が離せないってこういうことをいうんだろうなあ。バンド内ユニットのうち、The SUZUKI、ガカンとリョウメイ、アートポート、SUZUKI K1>>7.5cc、という4アーティストが出た今日のライブを見ての感想は『ムーンライダーズ解体新書』。ふだんは「ムーンライダーズ」って名前で歩いてる一人の人間が、心臓だけになっちゃったり胃袋だけになっちゃったり眼球だけになっちゃったり。「うわ、ムーンライダーズってこんなに似ても似つかないパーツからできてたんだ!」ってあらためてビックリしちゃう。で、そのパーツが単独で動いたり、肝臓と肺が組んでそれだけで動き出しちゃったりするわけだから、これは明らかに元のムーンライダーズっていう人間とはまったく別の生き物なんだよなあ。だから元の姿を知ってる者にとっては妙に不思議だったりグロテスクだったり可笑しかったりするんだけど。…なんてことを、バンド内ユニットを並べて次々見るという今日の珍しい機会に感じた。すごくおもしろかったよ。

 

■ガカンとリョウメイ

最初に登場したのは武川雅寛さんと白井良明さんのユニット「ガカンとリョウメイ」。実は私は生で観るのは初めてだ~。やるのが「久しぶりだね」とは言ってたけど、バンド内ユニットでは最近一番活発な活動を(たぶん)しているだけあって、さすがの落ち着き&息の合ったコンビぶり。良明さんの、指の動きも音も美麗なギターに見惚れました。アコースティックギター+バイオリンというクラシカルな組み合わせなのに、お行儀よくも保守的にもならず、どこまでもやんちゃでアグレッシヴなのがガカリョウの魅力。性格的にも、このふたりのカラッとした組み合わせは「ムーンライダーズ内西海岸」だね。威勢よく、30分ぐらいかな、演奏して終了。

 

■SUZUKI K1>>7.5cc

5分ほどの休憩のあと「SUZUKI K1>>7.5cc」。慶一さんのソロも私はそういえば初めて。客席右手に設置されていたスクリーンに抽象的な映像が映し出され始めたと思ったら、意表をついてその脇に慶一さん登場。観客はみんな右方向に身体をねじって見る形。慶一さんのこれはなんて言うのかなあ、サンプリング音源とギターによる音響系(音響系と呼ばれる音楽を聴いたことないのでそう言っていいのかわかんないけど)な音作り。そのあとボーカルが入る曲もあったけど、おおむね音響系(わかんないけど)。慶一さんって人はつくづく混沌の人だなあ、と思う。そして、彼の中のこの混沌とした何かを「バンド」に拡げていったときにムーンライダーズになるんだってことがよくわかった。だからこそあのバンドはあんなに不可解だし、同時に、「6人の持ち物」であることでポピュラリティも得ているんだなって。ムーンライダーズの核にあるどろっとしたものを抽出して見せてもらっているような感じ、慶一さんのソロは。ある種rawな体験、それはけっして悪い意味ではなくね。さらっと何曲かやって、慶一さん退場。

 

■アートポート

休憩を挟み、次に出てきたのはアートポート!私はアートポート観るのも初めてだよー、今日は初めてづくしで貴重だなあ。奥のドラムにかしぶちさん、向かって左にベースの博文さん、右にギターの良明さん。50代のスリーピースバンド、く~カッコイイ!世の中にバンド無数あれど、こんな激シブなスリーピースバンドは西のクリーム(再結成)と東のアートポートぐらいじゃないか(笑)?博文さんと良明さんは椅子に座っての演奏。いやこのアートポートが。めちゃカッコよかったっす!アートポートがただ一枚出してるアルバムは私も持っているのだけど、時代と彼らの若さ(当時ね・笑)が手を取った、すごくソリッドでニューウェーブな印象の音なんだよね。あのアートポートの世界を今の彼らがどうやるんだろう?と興味しんしんだったんだけど、いや~さすが!3人が音を出した途端、あの張り詰めた感触がヴィヴィッドに甦って震えたし、そこにさらに大人の凄みと色気が加わったようで、とんでもないよマジに。ヤバい感じに満ちてたなあ。こんな曲者3人がバンドの要を担ってるんだから、やっぱりムーンライダーズって集団、凡庸なアウトプットが出る筈ない。大好きな「ニットキャップマン外伝」とかしぶちさんボーカルの「気球と通信」が聴けて悶える。良明さんのニューギター(ジム・ホールバージョンでしたっけ?)、繊細でうっとりするようないい音してたなあ。博文さんの指も、ををっと思うぐらいフレットの上を動きまくってた。それから白眉は最後の「ロシアン・レゲエ」のかしぶちさんのドラム!凄かったよ~。それまでは、いろんなサンプリング音が出るドラムパッドみたいなの中心に叩いてたかしぶちさんだったけど、この曲は身体張った迫力のドラミングで、手に汗握るような緊迫感だった…。これを聴けただけでも今日来てよかったと思ったよ!アートポート、5年ぐらい前はよく下北沢とかでソロライブやってたよね。また時々やってくれないかなあ。

 

The SUZUKI

そしていよいよ最後はThe SUZUKI。セッティングに時間がかかってるのか、ちょっと長めの休憩、そのあいだにも幕の向こうからシンバルやバスドラの調整音がこぼれてきて、もうクラクラしてしまう…。で幕が開くとステージに並ぶ並ぶマイクスタンド。袖よりメンバー登場、向かって左からサックス他の川口義之さん、バイオリン他の武川さん、ギター慶一さん、ベース博文さん、ギターサポートの青木孝明さん、そして奥のドラムスに夏秋文尚さん!!キャーーー黒タートルを腕まくり、今日もめちゃカッコイイです…(惚)。その夏秋さんの力強いドラムロールから始まって序章のようなインストの1曲め。ああそれにしてもなんて柔軟にして強力なバンドメンバーなんだろう。青木さんの自在なギターと夏秋さんのたしかにして飄々としたドラム、そこに川口さんのサックスや武川さんのトランペットやマンドリンが何とも無頼な異国風味を加えていく。あ、もちろん鈴木兄弟もギターとベースをがんばっているわけですが(笑)、何よりもそこにふたりの粗雑な歌声があることが、やっぱりThe SUZUKIサウンドの要なんだよね。The SUZUKIが鳴らしている音楽って、ほんとにこの国のどこにもない(ムーンライダーズともちがう)、オリジナルなものだと思う。こういう音が聴ける場にいられることのシアワセ。それにしても…夏秋さんの手元に惚れ惚れ。ものすごくたしかなドラミングなのに、どっか緩い感じがある夏秋さんの独特の音、ほんとにThe SUZUKI向きだと思うなー。そしてここでも、相変わらず俯き加減の痩身ドラマーであった(笑)、ああ素敵…。全部カッコよかったけど「朝日のない街」聴けてうれしかったなー。…と、ステージ上の錚々たるミュージシャンたちにうっとりしているうちにあっという間に時は過ぎ、途中メンバー紹介で博文さんが夏秋さんの名前を間違えるというハプニングなども織り交ぜつつ(何年付き合ってるんすか!笑)、最後はやはりインストっぽい曲で終了。

 

■アンコール

でね!アンコールがまた!凄かったっす!今出ていたThe SUZUKIのメンバーに加えて、呼び入れられた良明さん、そしてかしぶちさん~!もちろん奥のドラムセットには夏秋さんがいたわけだけど、かしぶちさんがそこを通るときに、夏秋さんを押しのけて座ろうとするようなポーズしたのが、茶目っ気にあふれてて可笑しかった。ま、そのあと彼はその先のドラムパッドのセットのほうに座るわけですが(笑)。かしぶちさんと夏秋さんの絡みって貴重かも~、二人とも色男だし、見ててドキドキしちゃった(←大バカ)。で、凄かったのはその絡みではなく(笑)、アンコール曲!ステージ上の8人のミュージシャンがそれぞれの楽器からそれぞれ好き勝手なリズムや音色をはじき出していると思ううちに、それが糸を縒るように少しずつ集まってきて、そして扉を開けるがごとく放たれるあの印象的なイントロのフレーズ。「銅線の男」。この旋律を聴くと、たちまち身体が、アルバム『P.W Babies Paperback』を初めて聴いた時の空気の中に引き戻されてリアルにドキドキする。この曲は、CDでのかしぶちさんのドラムはもちろん、矢部さんでも坂田さんでも聴いてるけど、まさか今日、夏秋さんバージョンを聴けるとは思わなかったからうれしかった。夏秋さんのドラム、迫力あって狂おしくて素晴らしかった。もうめちゃカッコイイ、背筋がぞくぞくしちゃった…。博文さんの声+慶一さん武川さん青木さんのコーラスも素敵で、妖しくて不敵なこの曲やっぱり大好きだ。

 

バンドセットのThe SUZUKIはやっぱり、ものすごくよかった!このメンバーでぜひソロライブやってほしい、たっぷり聴きたいよ、この粗くて緩くてユニークな労働者階級ロック。アートポートも、「若さはないが底知れなさがあるスリーピースバンド」って感じが、予想以上に独特でおっかなかったんで(笑)、ぜひこの路線も突き進めてほしいなー。今日のライブでは、「ムーンライダーズ」は見ていないわけなんだけど、各ユニットを見ていると結局ムーンライダーズというバンドの魅力をつくづく思い知るという不思議な企画。来週は残念ながら私は行けないのだけれど、見ればきっとこのバンドの奇怪なモンスターぶりをますます体感することになるんだろうな。いちいちすげーバンドだ。他にも書きたいこといっぱいあるんだけど、今晩はこの辺で。

 

最後に、ぜんさんに、ありがと。今日チケット取ってたのに残念ながら会場に来れなかった彼が、立見券だった私に「私の席で見なさい」と言ってくれたのでした。さんきゅう、お礼にツッコミ一回分減らしとくね。